日本共産党神戸製鋼委員会バー更新履歴
ホームへ わたしたちの活動 職場の動き 職場の声 はたらく者の権利 世界の動き・日本の動き ひろば リンク

「当社グループにおける
不適切行為に関する報告書」へのわたし達の見解

高炉
不正行為が発覚してから1年が経ちます。「神戸製鋼は変わったのか」とマスコミも大いに注目しています。
8月1日には、「当社グループが推進する再発防止策の進捗について」が発表されました。
各種施策に一定の成果がみられると評価されています。みなさんの職場は、変わった、変わりそうという実感はありますか。 わたし達は、さまざまな角度から不正問題について議論を重ねてきました。報告書に関するわたし達の見解を紹介します。この問題についてのみなさんのご意見・ご感想をお寄せください。お待ちしています。

「当社グループにおける不適切行為に関する報告書(2018年3月6日)」に関する討論材料

目次
1.「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」の成り立ち
2.事実関係について
3.原因分析について
4.再発防止策について
5.「収益偏重の経営」の根元について
6.真の再発防止策に向けて


1.「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」(以下「報告書」)の成り立ち

「報告書」は外部調査委員会による「不適切行為(公的規格または顧客仕様を満たさない製品等について、検査結果の改ざんあるいはねつ造を行うことで、これらを満たすものとして出荷した)」に関する事実関係の調査結果の取締役会への報告を受け、「品質ガバナンス再構築検討委員会」「コンプライアンス委員会」「品質問題調査委員会」における検討結果と併せて、神戸製鋼所(神鋼)が、事実関係、原因分析及び再発防止策等を取りまとめたものである。17年11月10日に公表された「中間報告書」に対して「最終報告書」という位置づけである。

 「報告書」の構成で主要なものは、「第3 本件不適切行為に関する事実関係(事実関係)」、「第4 本件不適切行為の原因分析(原因分析)」、および「第5 本件不適切行為に対する再発防止策(再発防止策)」である。これらの内、外部調査委員会が行ったものは事実関係の調査であり、原因分析および再発防止策の策定は神鋼が自ら行った。しかも、事実関係の調査結果も、外部調査委員会が取締役会に報告した原本ではなく、それを神鋼が概要として整理したものである(外部調査委員会の調査で判明した事実関係を不当に省略、歪曲していないことを、独立社外取締役5名が確認したと付記されている)。

 このような成り立ちの「報告書」は、日本弁護士連合会(日弁連)および日本取引所自主規制法人が示している企業不祥事への対応ガイドラインに照らし合わせると、適切なものとは言い難い。この点に関する批判が、一部マスコミでも報道された。主な批判点は、@外部調査委員会の調査結果そのものを公開せず、また非公開とした理由の説明が不十分であること(情報開示と説明責任)、A不適切行為の原因分析および再発防止策に外部調査委員会の結果がどのように反映されているのかが不明確であること(利害関係者からの中立・独立性)の2点である。同じ時期に、同様な不適切行為が発覚した三菱マテリアルおよび東レは、第三者委員会(外部委員会、有識者委員会)の調査・検討結果(事実関係だけでなく、原因分析、再発防止策を含む)を公開するとともに、これに対する社としての見解を公表している。

 このような批判が寄せられている「報告書」であるとの前提の上、事実関係、原因分析、再発防止策について見解を述べ討論材料としたい。

2.事実関係について

「不適切行為」について当該部署の関係者からの情報を持ち合わせていないので「報告書」の記載内容から判断することになるが、マスコミ等で報道されていた事案は含まれており、実際に行われた「不適切行為」が「事実関係」として書かれているものと受け取れる。噂されていた役員の関与、黙認、隠ぺいについても、事実が記載されているものと判断できる。

 外部調査委員会の報告の原本は開示されなかったが、何が行われたのかについて基本的に明らかにされ、一歩前進と評価できる。今後新たな疑惑が浮上した場合には、改めて実態の解明と情報開示を求めていく。

 一方、外部調査委員会が3名の弁護士から構成されていたにもかかわらず、「不適切行為」が不正競争防止法に違反(虚偽表示)する疑いがあることが「報告書」には記載されていない。そもそも外部調査委員会から法令違反の疑いが指摘されなかったのか、指摘されたが報告書作成時に削除されたのか疑問が残る。6月に東京地検特捜部と警視庁が、虚偽表示などによる不正競争防止法違反の疑いで神鋼を強制捜査し、7月19日に不正競争防止法違反の容疑で、東京地検が起訴している。

3.原因分析について

「報告書」は直接的原因として、
1.工程能力に見合わない顧客仕様に基づいて製品を受注・製造していたこと
2.検査結果等の改ざんやねつ造が容易にできる環境であったこと
3.各拠点に所属する従業員の品質コンプライアンス意識が鈍麻していたこと
の3点を指摘している。その背景にある根本的な原因を以下3点に集約・再編している。

1.収益偏重の経営と不十分な組織体制
2.バランスを欠いた工場運営と社員の品質コンプライアンス意識の低下
3.本件不適切行為を容易にする不十分な品質管理手続き

 しかしながら、直接的原因、根本的原因について、掘り下げた分析は不十分である。
 本来不正を是正すべき立場の者が、不正に関与、黙認、隠ぺいしつつ、役員に昇進した経緯、その理由については、まったく触れられていない。さらに、不正を認識していた役員がいるにもかかわらず、経営層の中で長年にわたり問題が共有されてこなかった原因についても、「経営陣のコンプライアンス意識の不足」の一言で片付けられている。「内部通報制度」がありながら、なぜ「不適切行為」をもっと早く発見できなかったのかも疑問の一つであるが、この疑問にも「報告書」は「社員の品質コンプライアンス意識の鈍麻」と記しているだけである。これらも「報告書」の大きな欠陥である。

 本社の経営姿勢の持つ問題を「各事業部門は、徹底したコストの削減と生産拡大を目指す経営姿勢に従って、収益力の拡大を狙い、各拠点もこれに従って利益目標を高く設定せざるを得ず、その結果として、工程能力を十分検証することなく受注するといった生産至上主義が根付き、本件不適切行為が行われる一つの要因となったと考えられる」と指摘している。

 工程能力に見合わない顧客仕様等に基づく製品の製造が継続・実施された工場運営の背景として「顧客仕様を満たさない製品の全てを正規のフローに従って再検査、屑化又は転用等した場合、顧客と合意した納期を順守することができず、顧客から損害賠償請求を受けたり、競合他社への転注を招いて失注したりするおそれがあり、ひいては売上低下等により工場自体が操業停止に追い込まれるおそれもあったため、これらを回避する目的で本件不適切行為が行われていた」と「納期至上」の実態が指摘されている。また「・・・顧客の値下げ交渉等に応じざるを得なくなって利益目標を達成できなくなったりすることをおそれるあまり、顧客に対して仕様変更、納期の延期や特採等の申し入れを断念」と「利益至上」の記載もみられる。

 さらに「高い利益目標が設定された生産計画に基づく操業によって『機会があればとりあえず受注する』、『できるだけたくさんの製品を生産して利益を上げる』といった生産至上主義が、各拠点に根付いていた」と言及されている。これに続いて、 「このような生産至上主義により、各拠点では、受注の成功と納期の達成を至上命題とする生産・納期優先の風土が形成され、短期的利益を確保する目的で本件不適切行為を行うに至り、本件不適切行為が長期化するに至って、本件不適切行為が顧客の信頼を裏切る行為であるという意識さえも薄れていったと推察される。
とりわけ、アルミ・銅事業部門においては、十分な収益貢献を果たすことができず苦しんてきたという歴史的背景があり、何とかして収益貢献を果たしたいという強い思いを有していたことが、無理な受注や顧客軽視に見られるような、顕著な生産・納期優先を生む一つの要因となったと考えられる。」
と述べられている。

 しかし、「誰が、どのような理由で、何を根拠に高い利益目標を設定したのか」、「誰が、なぜ、何とかして収益貢献したいという強い思いを有していたのか」まで、掘り下げられていない。
また、製品検査結果の改ざん、ねつ造の要因として、当該製品の競合他社への転注を招き失注する恐れがあったと指摘されており、競合他社に対して技術・製造能力が劣位であることが強く示唆される事例も散見される。「報告書」には技術力、製造能力の競合他社との比較検討がなされた形跡は認められない。現実に製品を製造する力が不十分であったと判断せざるを得ない事例について、その背景・原因に言及されていない。


4.再発防止策について

「報告書」は、以上見てきたように、一連の不適切行為の根本的原因として「収益偏重の経営」があることを、表面的で不十分ではあるが指摘している。ところが、「再発防止策」を見ると、「収益偏重の経営」を是正することなく「不十分な組織体制」にのみ焦点を当て、「事業部門制」を「悪者扱い」し、「本社による管理強化」の色彩の強いものとなっている。「品質ガバナンス体制の構築」の名のもとに、本社による事業部門、従業員の管理強化が全面に打ち出されている。「最初のボタンをかけ間違えている」と言わざるを得ない。

 工程能力改善のための計画的な設備や人員の強化も「再発防止策」に盛り込まれているが、顧客仕様を満たす製品を生産量、品質、コスト、納期の要件を満足させて製造できるようにする実施内容なのか、当該部署の担当者と十分に意思疎通して立案された計画なのか疑問が残る。製品の製造や検査に不可欠な設備への投資が行われてこなかった、十分な要員が確保されていなかった(人手不足)という記述も散見されるが、なぜ必要な投資が行われなかったのか、十分な要員が確保されていなかったのかの解明をせずに作成された改善計画に実効性があるのか疑問である。

 一部とは言え役員自らが蹂躙してきた「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」を、何ら反省もなく従業員に強要することは“風土改革”にはつながらず、逆効果である。

 肝心の「収益偏重の経営」の改革については、唯一「事業管理指標の見直し」が提起されているが、具体性に欠ける。

 以上のように実効性のある「再発防止策」と評価することはできない。


5.「収益偏重の経営」の根元について

「収益偏重の経営」は、過去からの一連の「中期経営計画」により進められてきた。現在の2016-2020年度中期経営計画”KOBELCO VISION G+”(2016年4月5日発表)は、2010年4月14日に発表された中期経営計画”KOBELCO VISION G”に起源を持つ。「安定」と「成長」を掲げた2006-2008年度中期経営計画に続き、2009年度に新たな計画を策定予定であったが、過去にない世界経済の変化(Lehman Crisis)を受け、一時中断された。“KOBELCO VISION G”は、2006-2008年度中期経営計画に続くものとして策定された。

 この計画では、5〜10年後の神鋼グループ像として、売上高3兆円、経常利益2,000億円超が「目標イメージ」として設定された。なお、売上は国内と海外でそれぞれ1.5兆円すつと掲げられた。ちなみに、2008年度の売上高は2兆1,770億円、経常利益は608億円、2009年度の売上高は1兆6,710億円、経常利益は102億円であった。2008年度比で売上高1.4倍、経常利益3.3倍、2009年度比で売上高1.8倍、経常利益20倍を目標とする計画である。これは、根拠の無い希望的数値目標に過ぎない。神鋼本体が100年以上の歴史を経て実現できている売上に相当する額を増加させることを、何を根拠に売上高目標としているか。どこにも示されていない。

 その一方で、2016年に発表された”KOBELCO VISION G+”では、D/Eレシオ1.0以下、ROA5%以上という財務目標を設定している。過去5年間のROAとD/Eレシオの実績を表1に示す。表1からわかるように、過去5年間でROAが5.0%を超えたことはない。

年度20132014201520162017
ROA(%)3.84.41.1-0.83.9
D/Eレシオ1.110.881.01.170.98

 これらを総合すると、投資に大きな制約を課した上で、売上高を増やし、利益率を高くするという実現のための戦略の無い経営計画と言える。

 このような根拠のない希望的な高いグループ数値目標が本社で掲げられ、各事業部門、グループ会社に割り振られる。事業部門、グループ会社は、割り振られた数値目標に従い、各事業拠点、工場の目標を設定する。これがそれぞれの営業部門や工場の生産部門に高い売上目標、生産目標、利益目標を強いてきたメカニズムと言える。このメカニズムの中で無理を承知で、「目標達成のためには多少のコンプライアンス違反は仕方ない」と判断して実行、指示あるいは黙認して成果を出した中間管理職(室長、部長)が役員にまで昇進したのではないのか。「報告書」では、ここにメスが入れられていない。

6.真の再発防止策に向けて

 まず過去からから引き継がれた、「神鋼は高度成長すべし」という呪縛から離れることが出発点である。初めに売上や利益の希望的数値目標を設定するのではなく、社会的分業の連鎖(サプライチェーン)の中で神鋼が担うべき役割と責任を明確にし、それに見合った経営計画に見直す必要がある。日本取引所自主規制法人が最近(今年の3月30日)策定した「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」にも以下の記述がある。

「実力とかけ離れた利益目標の設定や現場の実態を無視した品質基準・納期等の設定は、コンプライアンス違反を誘発する。」
「今日の産業界では、製品・サービスの提供過程において、委託・受託、元請・下請、アウトソーシングなどが一般化している。このような現実を踏まえ、最終顧客までのサプライチェーン全体において自社が担っている役割を十分に認識しておくことは、極めて有意義である。」

 利益目標達成のためならば、「納入先(顧客)で問題とならない範囲であれば検査結果の書き換え、ねつ造もかまわない」「多少のコンプライアンス違反もしかたない」という意識の誘発を抑制するためにも、根拠の無い希望的数値目標設定に繋がる「神鋼は高度成長すべし」という呪縛から離れることは重要である。

 その上で、本社および部門の経営陣は、従業員の声を聞きながら、各事業部門においてそれぞれの特性、実態に応じた具体的な経営計画を策定する。販売や製造の現場から離れた本社による統制強化は再発防止とは逆方向である。従業員も各層に応じて知恵を出し、経営層に対して正当な要求の声をあげる。一部投資家だけでなく、従業員、取引先、顧客、株主、地域社会等、利害関係者全体が、適正に利益を享受できる経営をめざすべきである。 四半期毎に決算報告の開示を義務付けられている上場企業において、中・長期的観点に立って再発防止策を策定し実行する経営層としての資質、能力、手腕、責任感が問われている。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
みなさんと一緒に考えていきたいと思います。意見や感想をメールなどでお寄せください。よろしくお願いします。
ご意見やご感想はこちら
からお願いします。

ホームへ わたしたちの活動 職場の動き 職場の声 はたらく者の権利 世界の動き・日本の動き ひろば リンク