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EUの労働者の闘いから見えてくる日本の労働事情

≪第3回 グローバル企業トヨタに見る労働条件の日仏格差≫
経済グローバル化の進展につれて、日本企業、とくに、自動車メーカーのグローバル企業化も顕著になっている。トヨタ自動車をはじめとする日本の大手自動車メーカーのシェア拡大が続き、世界市場でのシェア争いが、とりわけ激しさを増している。

ドイツをはじめ、ヨーロッパや世界各地の自動車メーカーは、日本企業を見習うとして、賃金据え置きの労働時間延長などの攻撃を強めている。年間一兆円を超す純利益をあげながら、賃上げを拒否し続けるトヨタ自動車のやり方に、労働運動のみならず経営者側からも関心が高まり、とりわけ、労働条件の実態とその否定的影響への批判、「企業の社会的責任(CSR)」を問う声が強まっている。そこで、同じトヨタ自動車資本が経営する、フランスと日本の工場(以下「フランス」と「日本」と表記)での労働条件を比較し、その格差の実態と、格差解消の緊急性を明らかにしたい。

1.労働時間を中心としたトヨタ日仏比較
全日本金属産業労働組合協議会(IMF-JC)の「加盟組合労働諸条件一覧」(2003年度第1巻)に掲げられている「日本」に関する項目で、対比可能なデータが「フランス」の労働協約(「労働組含の権利と従業員代表制度、雇用と人材管理、職業訓練、労働時間の調整および編成に関する枠組み協約」、2001年1月調印)にも存在する項目に関して、比較・検討を行うことにする。なお、ここでの比較対象は、断らない限り、一般的工場労働者を対象とした規定であり、2002年現在のものである。

勤務態様別労働条件
表1に示すように、勤務態様別で比較すると、食事休憩・休息は「日本」がやや長く、勤番ごとの拘束時間も全体的には「日本」が少し長く、「フランス」の遅番は実働、拘束共に「日本」を上回っている。こうした事実から、また、以下に示す実労働時間の事実上の延長策にも現れているように、トヨタは「フランス」でも、法制等のルールが許容する最低限に労働条件を押し込む策をとっている。

トヨタ・フランス工場の実労働時間の事実上の延長策
オブリー法第二法(「労使交渉による労働時間短縮に関する法律」では「待機状態での休憩・食事・着替え時間は実労働時間」とされたが、トヨタ・フランスの労働協約は次に掲げる時間を「実労働時間」からは除外しつつ、「有給時間」としている。

  • 食事休憩:一日あるいは一勤番当たり20分
  • 休憩時間:一日あるいは一勤番当たり20分
  • 職務前の打ち合わせ時間:一日あるいは一勤番当たり5分
  • 所定の標準時問を超える通勤時間:一律・定額による手当支給
  • 着衣・脱衣時間:一律・定額による手当支給
「フランス」には、このほか前後する二つの勤番の間に、最低、継続する11時間の休息(週休は法律で連続24時間以上と定められているので、週休日は35時間以上の休息になる)がある。

時間外労働と年次有給休暇
表2に示すように「フランス」では、法律で年間時間外労働枠(上限)が180時間と定められている。その枠内で、トヨタ労働協約は、1日:1日の実労働時間の上限10時間(繁忙期は同12時間まで延長可能)、1週:実労働時間の上限48時間(ただし、連続する12週について、部署により週平均42時間または44時間)と取り決めている。年間時間外労働の上限規制で、「日本」が「フランス」の4倍にもなっている事実は、労働条件の中核である労働時間に関するルールが日本では極めて弱体であることを象徴している。

日本では、労基法で、6ヵ月以上勤続し、かつ、全労働日の八割以上出勤が休暇権取得要件とされ、有給休暇は当初一年間10日間、その後1年増すごとに1日増で、最高20日の付与が義務づけられている。「日本」ではこれを若干上回って、最高付与日数(勤続4年以上)は20日(勤続6ヵ月以上10日、1年以上17日、2年以上18日、3年以上19日)とされている。
一方、フランスでは、法律上、勤続1ヵ月(24労働日)が休暇権取得要件で、端数月には1ヵ月につき2.5日付与される。6月1日を起算日とした一年間に5週間(30日)が付与され、最低連続2週間(12日)まとめてとらなければならず、最長連続は4週間(24日)と定められている。「フランス」でも有給休暇についてはこの法制が適用されている。こうして、年次有給休暇についても、「フランス」の方が休暇取得権は早期に、かつ、対等の月割計算で付与される、有給休暇日数は年10日多く、最低2週間連続の取得を義務づけるなど、「日本」を大きく上回っている。

フランス・トヨタでも十分な成果
トヨタの、連結会計で見た利益の主要部分が日本での低コスト生産に依存していることは、これまで繰り返し指摘されてきたとおりである(たとえば、仙波好「トヨタ自動車グローバリゼーションと再編・『合理化』」(『労働運動』2004年1月号参照)。そして、「フランス」での労働コストが「日本」よりもかさむことは、上でみた比較だけからも想像される。実際、「フランス」の渡辺社長(当時。2001年の労働協約署名の会社側当事者)は、日本の研究者との懇談のなかで、週35時間労働制やバカンス(年次有給休暇などのために、年間総労働時間が1600時間余にしかならないともらし、その制約の下での経営戦略の新展開を必要としていると強調している。しかし、それにもかかわらず、「フランス」では、トヨタにとって十分な成果が生まれている。

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2.トヨタを手本に労働条件切リ下げを競うグローバル企業
トヨタは蓄積した利潤にものを言わせて生産能力とシェア拡大を続け、さらに、「労使一体」による低労働条件・コストダウン、利潤第一主義と蓄積を貧欲に追求し続けている。実際、トヨタは2010年までに世界シェア15%を獲得して、トップの座を占めることを企図している。追い詰められつつある他のグローバル・メーカーがそうしたトヨタの経営労務管理戦略を「手本」とする傾向が強まりつつある。

激化する国際市場支配競争のなかで、海外の自動車メーカーで、生き残りを理由とした、外国移転の脅迫をともなったリストラ攻勢が相次いでいる[本シリーズのドイツ、ドイツ補論を参照]。とくに、伝統的自動車産業の国ドイツでは2004年、ダイムラークライスラー、フォルクスワーゲンの両社で、雇用保障と引き替えの賃金据え置き・労働時間延長などによるコストダウンの労働協約が締結された。そして、さらにアメリカ資本GMのドイツ小会社オペルでは、欧州の関連労働者がたたかいによって工場閉鎖を阻止したものの、三分の一に相当する人員削減に基本合意する事業所協定が結ばれた。

フォルクスワーゲン社とIGメタル(金属産業労働組合)の労働協約交渉では組合側が4%賃上げと長期的雇用保障などを要求したのに対し、会社側は、2010年までに30%のコスト削減をすることが不可欠なので、賃上げはできないとして譲らなかった。その根拠として、「手本はトヨタだ。トヨタは激しい競争圧力を理由に、すでに賃上げゼロで、労働組合と合意している」(「シュピーゲル」誌電子版2004年8月22日)を挙げている。この労働協約交渉は、西独部6工場約10万人の労働者の雇用を2011年まで保障することと引き替えに、2007年1月まで28ヵ月間賃上げなしなど、労働者側の大幅譲歩の内容で妥結に至った。

韓国では、2004年賃金・労働協約交渉で、起亜自動車労組が「速戦即決」(いわゆる一発回答方式)に路線転換した。その主な理由は、「会社あっての労組」という企業別組合としての制約と、とくに、会社側が、トヨタの経営戦略と労使関係をモデルとしてあげつつ、労組側に経営上の危機意識の共有を働きかけてきたためだと言われている。

最低クラスの日本の労働条件が格差の基盤
トヨタにおける労働条件について、労働時間を中心に日仏比較するとともに、その否定的影響を検討し、日本が発達した国の労働条件引下げ役になる危険性を確認してきた。日本の労働・生活条件および労働者・労働組合権の実態が主要国中で最低クラスであり、「ルールなき資本主義」と特徴づけられることは周知のとおりである。それは、労働時間の長いこと、サービス残業の蔓延をはじめ、最低賃金(制)、解雇規制、失業者保護の低水準ぶり、異常な高水準を続ける過労死・過労自殺、年金制度の不備、とくに最低保障年金の不在、公務員労働者の労働基本権剥奪などをみるだけでも明らかである。つまり、第二十五条をはじめとする日本国憲法の諸条項で保障されているにもかかわらず、雇用(勤労)と生活に関する全国民的最低保障、ナショナルミニマムが確立されていない。そればかりか、さらに引き下げられようとしている。こうした諸条件がトヨタの日仏格差の基盤となっていることはいうまでもない。

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3.「話が違う」と怒るトヨタ・フランスエ場の労働者
トヨタのフランスなどヨーロッパ各地への進出がシェアと利潤獲得を第一の目的としたものであり、日本より厳しいフランスの労働法制や人間らしく働くルールを、積極的に受け入れているのではない。反対に、スキあらば、「日本」と同じやり方や条件を押しつけようとしている。トヨタが抱えるそうした矛盾は時の経過とともに顕在化している。

仏紙リベラシオン2004年7月27日付は、「トヨタが示した理想とは程遠い労働条件」と題した地元記者による工場ルポを掲載。同工場の労働災害発生率が同じ自動車メーカーでの4倍近くに上ることなどを指摘しつつ、フル稼働と労働強化ぶりを労働者の生の声で伝えている。ある離職労働者は、「からだが熱くなり、汗だくどころではなく、動物のようだと感じた。家に帰って子どもを抱き上げることもできなかった」と在職当時を振り返っている。

同ルポは、また労働者同士を監視させて分断支配している実態や病欠者に対する脅し、活動家労働者の作業上の無作為ミスを故意に言いがかりをつけて解雇しようとしたが、労働監督官に不当解雇と却下された事件なども紹介している。。

4.日本の労働条件のヨーロッパ並みへの改善は急務
以上に見てきた実態から、われわれは次のようなトヨタの日仏格差の特徴を指摘することができる。
  1. トヨタは日本より労働コストの高いヨーロッパの条件下でも、十分に利潤を確保している。 [日本の労働賃金は高いから競争カがないという主張にはごまかしがある。]
  2. トヨタはヨーロッパの労働法制や働くルールを最低限受け入れつつも、可能な限り、トヨタ式あるいは日本的な労使関係や労務管理を強制している。
  3. トヨタに代表される日本の大企業の、「人間らしく働くルール」と雇用・生活保障を無視した、シェアと利潤の拡大最優先戦略が続けば、日本が先進国の労働条件引き下げ役になる危険性が高まっている。
  4. トヨタは、労働条件をヨーロッパ並みに引き上げるのに必要なあらゆる経済的条件を備えており、それを実行することが、日本一の大企業・日本経団連会長企業の「企業の社会的責任(CSR)」として、今こそ、国内的にも、国際的にも要請されている。
上記の記事は「前衛」2005年2月号、p206-217に掲載された、高岡荒馬氏の同題名の論文を要約したものです。

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